花弁 大工の腕は、耳でわかる。

腕をのばして抱き寄せる
・・・

その腕が空を舞った

慌てて　目を開ける

昨日の出来事は
やはり儚い夢であろうか
息が出来ないくらい
苦しくなった

あわてて自分の
からだの感触を確かめる

手を伸ばし
床のぬくもりを確かめる

まだ人肌のぬくもりが
感じられる床に触れ

よかった　夢ではなかった
と　安堵した

朝餉の支度でもしているので
あろうか？

昨夜やっと手に入れた
珠玉の女人

いとおしくてたまらない
触れると壊れてしまいそうな
そのか細い肩を思い出す

はじめての夜　
はじめての男
イムジャは何を思っただろう
俺に満足しただろうか

急に不安に襲われる

俺は　イムジャにふさわしい男で
あろうか・・・と
ただ　自分の欲のため
イムジャを抱いてしまったのでは
ないだろうか・・・と・・・

人を殺めてばかりの高麗の武士
俺は　イムジャを苦しめることは
ないだろうか

イムジャが失望するようなことを
俺はしでかさないであろうか

考えだすときりがない

俺はイムジャの笑う顔が見たくて
イムジャに触れて安心したくて
屋敷のなか　イムジャを探す

閨のとなり　
イムジャのいない4年のうちに
俺がついつい買い求め
イムジャのもので溢れる部屋に
・・・イムジャがいた

ここにいたのか・・・と
声をかけた

うすぼんやりとしか映らぬ鏡で
自分の姿を見るイムジャ
昨日の印の花弁が肌に残る

まさか後悔してるのか？

寒くはないか
からだはつらくはないか　と
そう聞くのが精一杯

イムジャの後に立つと
何も言わずに
イムジャが俺に寄りかかる

俺は後からしっかり抱きとめて
イムジャの頬に口を寄せる

幸せよ・・・

突然　耳に届いたその声に　
俺の不安は　吹き飛んだ

俺の唯一の女人の幸せを
この先も　ずっと　ずっと　
守るため
俺は悩んでなどいられない

大切な人を守るため
人はさらに　強くなる

昨日のぬくもりを思い返す
柔らかなイムジャを思い出す

イムジャ・・・
俺も幸せだ

イムジャは顔を朱色に変えた

イムジャの首筋から
俺の匂いがする
それがひどくうれしかった

＊＊＊＊＊＊＊

『今日よりも明日もっと』
大切ものを　離さぬように
この両腕で　包んでいたい・・・

　ひかり様　
「珠玉其の夜」で結ばれたあとの
ヨンの心模様のリクエスト
ありがとうございました
気に入っていただけるとうれしいです