春休み大好き人間大集合~♪
中学2年の春休み、父親の仕事の都合で引越しをした。
母親は東京のマンション暮らしから夢のマイホーム暮らしになることを喜んでいたが、私にとってはただの田舎暮らしになるだけで、嫌で嫌で仕方がなかった。駅前には活気がなく、好きな服を買おうにも、お店がない。東京の学校の友達はみんな遊びに行くよって言ってくれたけど、ここにいるとなんだかどんどん遅れていくような気がした。実際、外を歩いている自分と同じぐらいの年の女子を見ても、ジーンズメイトで買ったような服でコンビニの前でお菓子を食べていたりして、自分よりもずっと幼く見えた。
あんな人たちに囲まれていたら、わたしまでダサくなりそう……。4月から始まる新学期が憂鬱で仕方なかった。
ある日、新しい学校の説明会があるというので、お母さんと学校に向かった。
学校が近づくと、えんじ色のジャージを着てヘルメットを被って自転車に乗る生徒と多くすれ違う。
「なんか、すごい田舎くさいね。ヘルメット被ってジャージなんて、ちょっと信じられないんだけど。あーあ、東京帰りたいな」
なんて、お母さんに悪態をついたりした。実際、あんな人たちがクラスメイトになると思うとうんざりだった。
会議室に通されると、担任の先生になるという、ベテランのメガネをかけたショートカットの先生がやってきた。厳しそうな雰囲気が伝わってきて、緊張しながら挨拶をした。
一通り、生徒手帳を見ながら校則の説明を受ける。私の学年のジャージの色は青色らしい。部活に入れば自転車通学が可、ただしヘルメット着用、車に絡まる可能性があるのでマフラーは不可。靴下は白でワンポイントまで、など信じられないくらいに細かく指定がされていて、聞いているだけで頭がクラクラした。髪型についてもパーマ、染髪は不可、とお決まりの説明を受ける。まるで品定めをするように厳しい目つきで私のことを見ながら、先生が言葉を続けた。
「それから、髪は短くしてもらいます。今はだいぶ長いようですけど、始業式までに切ってきてくださいね」
え? どういうこと?
お母さんを見ると、少し困ったような顔をして私を見ている。
慌てて生徒手帳に書いてある女子の髪型と書かれた欄を見た。
「中学生らしい髪型。後ろ髪は襟にかからず、前髪は目にかからないこと」とだけ書かれていた。
「あの、実際どんな髪型にすればいいんでしょうか?」
と、お母さんが尋ねた。
「いわゆるおかっぱですね。一中の髪型といえばだいたいこの辺りの美容室なら通じると思いますよ」
え、やだ、信じられない。髪切らなきゃいけないの?ショックを受けてぼーっとしていると、ノックの音とともにジャージ姿の女生徒が入ってきた。先生の前で一礼する。
「失礼します。おはようございます。バレー部全員揃いました。体育館でお待ちしてます」
思わず後ろ姿を追ってしまった。横の髪が耳の下あたりで一直線に揃っていて、首があらわになったおかっぱ頭だった。
「だいたいみんなあんな感じの髪型ですね。学期始めに頭髪検査があるので、よろしくお願いしますね」
年を押すように先生が言った。
「わかりました。入学までに準備します」
と、お母さんが言った。私は何も言えずに下を向いていた。
あまりのショックに帰り道は言葉少なだった。お母さんもそれを察して慰めるように言った。
「髪切らなきゃいけないみたいね。お金あげるから、美容室行ってきなさい」
「えー、やだ。切りたくないよ」
「でも仕方ないでしょう。規則なんだから。一人だけ長いといじめられるよ。ほら、見てみなさいよ」
グラウンドにいる生徒の髪型は男子は丸刈り、女子は一人残らずおかっぱ頭だった。まるで戦時中の風景みたいで私から見ればすごい恐ろしい風景だったが、そんなことは当の本人たちは気づいていないようだった。
「だって、ずっと伸ばしてたのに。なんで切らなきゃいけないの?」
「仕方ないでしょう、校則なんだから。もうそんな子どもみたいなこと言わないの。卒業したらまた伸ばせるんだから。短い髪もきっと似合うよ」
全然納得がいかない。ずっと伸ばしていたロングヘアをこんなことで切らないといけないなんて……。
その後、新しい制服を買いに学校近くの洋品店へ向かった。新しい制服は味気ない紺のブレザーで全然かわいくなかった。これを着て毎日学校に通わないと行けないと思うと気が滅入る。
「あら、髪は切ってないの?」
採寸をしている最中、洋品店のおばさんが話しかけてきた。
「え、はい……」
「ここは特別校則が厳しいからね。小学校まで長かった子も中学生になるための儀式だと思って諦めてるみたいよ。だいたい制服合わせる頃にはみんな短くしてるけど。やっぱりこの制服には短い髪の方が似合うわね。新学期始まる前にさっぱりしないとね」
「はい……」
何気ない会話だったけれど、暗に長い髪じゃこの街では生きていけないよ、と宣告されるようだった。本当に、切らなきゃいけないんだ……。鏡には、制服を着たロングヘアの私が写っている。でも、次にこの制服を切る頃には、もうおかっぱ頭になっているのかもしれない……。今まで髪の短い私なんて想像したこともなかったけど、だんだんと、髪を切ることが現実になるみたいだった。
春休み CARE&CUREで人と向き合う。
春休み お尻だって、洗ってほしい。
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